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大阪高等裁判所 平成6年(行ス)10号 決定 1994年7月19日

抗告人

服部敏雄

右代理人弁護士

河村武信

正木みどり

松本七哉

相手方

茨木税務署長

永井齊

主文

一  本件抗告を棄却する。

二  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件即時抗告の趣旨及び理由

別紙抗告状(写し)記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

当裁判所も、抗告人の本件の文書提出命令の申立てはいずれも理由がないと判断する。その理由は、次のとおりである。

1 民事訴訟法三一二条に定める文書提出義務は、裁判所の審理に協力すべき公法上の義務であり、基本的には証人義務、証言義務と同一の性質のものと解されるから、文書所持者にも同法二七二条、二八一条一項一号等の規定が類推適用され、文書所持者に守秘義務があるときには、右文書の提出義務を免れるというべきである。

抗告人が提出を求めている青色申告決算書(以下「本件決算書」という。)は、個人の秘密に属する所得金額、資産負債の内容等が記載された文書であるから、税務署長は、職務上知り得た右のような事項につき、守秘義務を負っている(国家公務員法一〇〇条一項、所得税法二四三条、法人税法一六三条参照)ものである。

したがって、本件決算書が相手方において訴訟において引用した文書に該当するかどうかはともかく、相手方は右文書の原本の提出義務を負わないことが明らかである。

なお、抗告人は、本件文書を訴訟において引用することにより、守秘義務を放棄した旨主張する。しかし、相手方は、守秘義務を負っているために本件決算書の原本ないしその一部を秘匿した文書を証拠として提出せずに、同業者調査表を提出しているのであって、相手方において守秘義務を放棄したとはいえない。また、そもそも、守秘義務は、相手方である税務署長等行政庁の利益のためにあるのではなく、納税者である申告者のためにあるのであるから、相手方において、これを放棄できない性質のものである。抗告人の右主張は理由がない。

2 なお、抗告人は、右決算書の原本につき、その一部を紙片で覆う等して秘匿した方式によってもよいとの趣旨の予備的な申立て(第一次的予備的抗告、第二次的予備的抗告の趣旨)をしているが、抗告人主張の部分を秘匿した右の青色決算報告書によっても、その主要な勘定科目が開示され、その申告者と抗告人とは同一地域内に存する同業者であることに照らすと、その記載事項から申告者が判明する可能性は決して少なくない。したがって、抗告人のいう秘匿した方式によっても、なお守秘義務に触れるおそれがあるというべきであるから、右の可能性あるいはおそれのないことをうかがうべき資料のない本件においては、右各予備的申立ても理由がない。

3  その他、一件記録を精査するも、原決定に違法、不当の点は見当たらない。

三  結論

よって、抗告人の文書提出命令の申立てを却下した原決定は結局相当であって、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人の負担とすることとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官仙田富士夫 裁判官竹原俊一 裁判官東畑良雄)

別紙抗告状(写し)<省略>

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